城の崎にて

miyatan2008-01-20

  山の手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした、その後養生に、一人で但馬の城崎温泉へ出かけた。背中の傷が脊椎カリエスになれば致命傷になりかねないが、そんなことはあるまいと医者に言われた。二三年で出なければ後は心配はいらない、とにかく要心は肝心だからといわれて、それで来た。三週間以上――我慢できたら五週間ぐらいいたいものだと考えて来た。
 頭はまだ何だかはっきりしない。物忘れが烈しくなった。しかし気分は近年になく静まって、落ちついたいい気持がしていた。稲の穫入れの始まるころで、気候もよかったのだ。
 一人きりで誰も話し相手はない。読むか書くか、ぼんやりと部屋の前の椅子に腰かけて山だの往来だのを見ているか、それでなければ散歩で暮していた。散歩するところは町から小さい流れについて少しずつ登りになった路にいいところがあった。山の裾を廻っているあたりの小さな潭になったところに山女がたくさん集まっている。そしてなおよく見ると、足に毛の生えた大きな川蟹が石のようにじっとしているのを見つけることがある。夕方の食事前にはよくこの路を歩いて来た。冷え冷えとした夕方、淋しい秋の山峡を小さい清い流れについて行く時考えることはやはり沈んだことが多かった。淋しい考えだった。しかしそれには静かないい気持がある。自分はよく怪我のことを考えた。

志賀直哉 「城の崎にて」 冒頭より抜粋

 青春18切符最後の一回分、しかも期間最終日、とりあえず仕事が一段楽した自分へのご褒美、という事で、兵庫県城崎温泉に行ってきた。一応こんなルート。

南摂津(6:58)→大日(7:02/7:06)→東梅田(7:24)→北新地(7:45)→(尼崎)→篠山口(8:56/9:19)→福知山(10:23/11:07)→城崎温泉(12:26)

 あまり接続がよくない、特に後半。「えきから時刻表」というサイトだと、こういったすべてローカル列車の検索も可能なので重宝する。地下鉄谷町線の東梅田からJR東西線の北新地までの行き方がよくわからず、かなり地下で迷った。さすがに日曜の早朝の大阪中心部の地下街は、人っ子一人見当たらなかった。尼崎から福知山線に入る。そういえば、あのエフュージョン尼崎が見当たらなかった。なんか不謹慎な気もするけど。三年前の秋ごろには、かなり痛々しい姿を電車の中から目撃したんだけど。確か名神高速のガードをくぐる手前、伊丹方向に向かって右側、だったと記憶していたけど。さすが阪急との競合区間、とにかく飛ばす。そして途中やたらとトンネルが多い。篠山口で乗り継ぐ。とにかく、典型的な田舎といった感じの風景が続く。途中ウトウトとする。福知山に着くと、なんとまあ粉雪が舞っていた。ホームの待合室で次の列車を待っていたが、あまりにも寒くて駅ビルの待合室に移動。洒落にならないほどの寒さで、ホーム待合室のエアコンが全然効いていない。

 山陰本線に乗り換える。かなり雪が舞う。というか、結構積もっていた。一時間ほどで、城崎温泉駅に到着。いつの間にやら、城崎町が隣の豊岡市と合併していた。それと同時に、城崎駅から城崎温泉駅に改名したそうである。結構人が多い。とりあえずお昼時なので、駅弁「かにめし」を買って食べる。

 城崎温泉のいい所は、なんといっても駅から歩いて温泉街に行ける事と、共同浴場、いわゆる「外湯」が多くて、宿泊客でなくても気軽に温泉が楽しめることであろう。温泉街に向かう。とにかく、商店街のいたるところで「かに」が売られている。特に、「松葉ガニ」。冬の日本海といえば、やはり蟹なのであろう。とにかく蟹尽くし。

 温泉街は川沿いに柳の木が並び、情緒溢れ、これぞ温泉街、という印象。本当は、温泉寺に行こうと思っていたけど、あいにくの雨で断念。雨が雪に変わるかどうか、くらいの天気って一番寒くて辛い。いっそのこと、降るなら降り積もるくらい雪が降ってくれたほうがありがたい。足湯もあったけど、混雑していて入るのをやめた。

 城崎温泉の源泉、らしい碑もある。基本的に無色で、臭いもあまり無く、ナトリウムを豊富に含むので、口に含むとしょっぱい。飲むと、消化器官に効くらしい。

 外の湯めぐり第一弾として、「一の湯」に入る。「洞窟温泉」が売り物である。中には普通に浴場温泉があり、外に出ると、洞窟のような壁が覆うような露天風呂である。竹の壁の向こうは女湯らしい。家族連れの少年たちが、大声を出して隣の女湯に入っているらしいお母さんと話をしている。なかなかほほえましい光景である。勿論、隣の様子が見えるわけも無いけど。

 外に出ると、本格的に雪に変わりつつあった。湯冷めしない程度に、火照る体を冷ますように、軽く散歩する。二つ目はどこにしようかな、と思いつつも、結局サウナ付の駅前の「さとの湯」に行く事にした。ジェット風呂あり、フィンランドサウナあり、高温サウナあり、屋上露天風呂あり、ペンギンサウナあり、蒸し風呂ありと、なかなか多様性に飛んでいてよかった。解説すると、ペンギンサウナというのは、冷凍庫の中のようなサウナで火照った体を冷やすものである。凝縮器のフィンの部分に霜が着いていて、一応何時間かおきにデフロストをするようである。内部は氷点下0℃から5℃の間くらい。結構サウナで汗を大量にかいて、水風呂につかるのが好きなので、何回かやる。新陳代謝にもよいはず。蒸し風呂は周囲が見えないくらいの水蒸気を発する風呂で、アロマの香りが心地よい。屋上露天風呂にも入る。本格的に雪が降っている。さすがに寒い。でも、個人的には雪が舞う露天風呂に入ることは憧れだったので、夢が叶った気分。一日や二日がかりで、全温泉を巡る人がいるみたい。そんなおじさんとも少しだけ話をした。

城崎温泉七つの外湯めぐり】
http://www.kinosaki-spa.gr.jp/infomation/sotoyu/meguri/onsen.html

 雪もかなり降っていたので、予定を一時間早めて帰宅。帰りは行きとルートを変える。

城崎温泉(17:12)→和田山(18:08/18:27)→播但線→寺前(19:20/19:25)→姫路(20:10/20:17)→大阪(21:18)→以下略

 一応、大阪近辺からだと、福知山線経由よりも播但線経由のほうが少し早い。なんとなく行きと帰りでルートを変えてみたかったので、行きは福知山線、帰りは播但線にしてみた。豊岡とか、和田山の辺りは、かなり雪が積もっていた。姫路はさすがに積もっていなかったけど、ありえないくらいに寒かった。
 とまあ、そんな感じ。次はどこに行こうかな、、、なんてね。