アンデス日記 8

 昨日はひな祭りだった。もともと兄弟男しかいないので、我が家にはあまり馴染みは薄いが、個人的に「ひなあられ」が好きなので、近くのスーパーに買いに行った。行ってみてびっくり。関東と関西って、ひなあられが全くの別物のように違っている。てっきりお米のような甘い砂糖菓子のようなものを期待してお店に行ったら、実際に売っていたのは、それこそお煎餅のような、というかお煎餅そのもののひなあられ。ちょっとしたカルチャーショック。一応買ってきたけど、どっちが好きかといえば、関東版のお米のような砂糖菓子のようなひなあられである。

2月11日(日)
 朝四時くらいにたたき起こされる。四時半にタクシーが来ると思っていたのだが、実際四時に来てしまったようである。当然、まだ夜が明けていない。殆ど着替えもせずに寝ていたので、準備はあまり時間がかからなかった。ささっと荷物をまとめて、タクシーに乗る。今度こそ飛行機がしっかりと飛ぶことを願って。
 空港のカウンターは少し混んでいた。とりあえず、ダラスまで窓側の席が取れるように交渉。空港税US24$が、ボリビアの物価を考えるとかなり高い気がする。よくみたら、成田から伊丹の便の日付が間違っていたことが判明して、こちらも交渉して代えてもらう。日本に着くのは13日なのに、国内線の日付が12日になっていた。予約を入れ直してもらったはずなのに、ケアレスミスである。ボリビアは麻薬の原料が取れるだけあって、出国の際の手荷物検査が非常に厳しいと前もって聞いていたが、実際はそこまででもなかった。
 飛行機は予定よる少し遅れて、ラパス・エルアルト空港を飛び立つ。通常の滑走路よりもやや長めの滑走路である。少したってから下を見下ろすと、アンデス山脈の険しい地形が眼下に入る。あまりの険しさに、よくこんな空港で離着陸できるなと、パイロットを尊敬したくなる。朝早かったこともあり、少しうとうととする。やや飛行機は高度を下ろすと、一面緑の大地が広がる。余りにもあたり一面緑で、今までのアンデスの荒涼とした山岳地帯とはまた一味違った景色である。セルバと呼ばれる森林地帯に、ボリビアの第二の都市サンタクルスは位置する。ジャングルにも近いものがある。しばらく森とか樹木とか見ていなかったので、少し新鮮な気持ちにもなれる。吹き付ける雨の中、飛行機はサンタクルスのビルビル国際空港に到着。かなりの乗客が入れ替わった。
 しばらくして飛行機はまた飛び立つ。目指すはマイアミ国際空港である。ラパスを飛び立つ頃は、ものすごい気分が悪くて、このまま日本に帰れるかどうかも不安だったけど、不思議なくらい体調が少し回復している。かなり長い時間のフライト。眼下にはアンデス山脈がひたすら見えて、それが途絶えた頃、カリブ海上空へと差し掛かる。ベネズエラ辺りだろう。今度はコバルトブルーの海が広がる。三年前にキューバに行って、ものすごい美しかったが、またカリブ海に行きたくなってきた。もしもこんな自分が結婚できたら、新婚旅行はカリブ海に行きたいな、なんて密かに思っていたりもする。なんて思っているうちにマイアミ上空に飛行機は差し掛かる。整然として、お屋敷のような大きな家が並ぶ一方で、高層ビルが立ち並ぶ都会でもある一方で、それが途切れた辺りは巨大な沼のような湿地がいた広がる。マイアミを空から見るとそんな印象である。
 丁度各地からの国際線がまとめて到着したのであろうか。入国審査が想像を絶するくらいに混雑している。乗換えが二、三時間近くあるから余裕だろう、と思っていたけど、あまりの混雑度にかなり焦る。中南米からの国際線が集まる窓口のマイアミ、というよりは、中南米からの国際線をマイアミに押し込めたのでは、という位に中南米への国際線が集中している。そのためかどうかはわからないが、入国審査が非常に厳しいようである。不法就労を取り締まるためだろうか、明らかに日本人や欧米人一人一人にかける時間よりも、長く慎重に入国審査をしている。指紋の採取や、カメラを向いて、目の撮影は、もはやアメリカの入国では一般的に行われているようであるが、傍から見て明らかに厳しくチェックされている。もっとも私のときは、割と簡単に済んだが。来るもの拒み去るもの追わず、とでも言うべきだろうか、アメリカの出入国審査は。このご時世もあり、テロ防止で異常なまでに厳しいが、何気に出国審査はなかったりする。もはや放置されていたような荷物を引き取り、色々な人に道を聞いて、あわててダラス行きの乗り場を目指す。全速力で走る。国内線でも、検査は非常に厳しい。一旦靴を脱いで検査される。
 かろうじて間に合って、ダラス行きに乗り込む。今度は国内線であるが、アナウンスを聞くと、テグシガルパホンジュラスホンデュラス)発、マイアミ経由ダラス行きとか。およそ三時間の飛行時間。マイアミからダラスは、以前アメリカに旅行したときに、キーウェスト→マイアミ→ニューオリンズ→ヒューストン→ダラスと旅したので、その遠さはよくわかっている。マイアミからニューオリンズで丸一日くらい、ニューオリンズからヒューストンで夜行バスで一泊くらい、ヒューストンからダラスで午前中いっぱいくらいかかった記憶がある。そんな三時間のフライトを終えて、飛行機はダラス・フォートワース国際空港に到着。何を隠そう、アメリカン航空のまさに地元、本社がある街であり、アメリカの中でも特に大きいハブ空港でもある。
 荷物が出てくるまで、なぜかかなり待たされた。出てきたはいいとして、バッグにつけておいた、鍵がなくなっている…。確かにかけたはずなのに…。ホテルまでの行き方がわからないので、アメリカン航空のカウンターに行って聞く。とにかくもう早口で、何言っているんだか分からず、何回も聞き返した。。。まあもっとも、東海岸や西海岸のような外国人の多いエリアじゃなくて、中央のテキサスなので、あまりゆっくりと判りやすく英語を話すということに慣れていないのかもしれない…。でもちょっと悔しかったし、もっと英語をブラッシュアップしなきゃと思った。鍵のことを問い合わせると、政府機関がやったの一点張りで、自分たちは全く悪いことをしたという意識は全く見られない。法律はあるかもしれないが、少なくとも人が預けたものを破壊したことには違いないだろと思ったし、文化の違いといえばそれまでかもしれないが、お詫びの一言も全くなかったことには、ちょっと納得がいかなかった。カウンターの大ボスのおじさんのネクタイが、思いっきり星条旗のデザインだったのは、なかなかすごかった。
 ホテルのバスに乗る。とにかくここまでかという位に広い空港である。日本よりも面積が広い、だだっ広いテキサスである。ターミナルのビルから乗客を集めて、ハイウェイを疾走する。今までボリビアにいたこともあって、アメリカの高速道路がとても近代的に見えた。ウィンザーホテルに到着。アーリントン市に位置するようである。ウィンザーリゾートホテル、リゾートとついている時点で、自分とは程遠いほどの高級感があふれるホテルである。バスの運転手が荷物を取ってくれたときに、チップとして1ドル札を渡す。前の人たちが当たり前のようにやっていて、アメリカの習慣である。1ドルあったら、ボリビアで定食くらい食べれるのかなあ、とついつい考えてしまう。ホテルのバーが、スポーツバーで、とにかくアメリカのあらゆるプロスポーツをモチーフにしたもので、なかなか興味深かった。部屋はかなり広くて、ベッドも大きくて、景色も奇麗だった。まともに泊まったら一泊225ドルらしい。アメリカン航空のせめてもの懺悔なのだろうか、かなりリッチな気分に浸れた。とはいっても、朝食は付いていないようである。。。ここまできたら、泊まるだけとはいえアメリカ最後の夜を堪能しよう、と思って眠りについた。